第6回 全国地域おこし 名人・達人サミット in 桶川・北本

社会と繋がりたい気持ちの背中を押す「多機能作業所くじら雲」の活動

2024年10月18日

くじら雲は、2018年に北本市石戸地区に開所した多機能型事業所です。

畑と隣接する古民家を活用し、様々な困難を抱える方の生活介護、就労継続支援を行っています。今回はくじら雲におじゃまし立ち上げ人である鹿谷さんにお話を伺いました。

―立ち上げの経緯を教えてください。

鹿谷:私は小学校の教員をずっとやっていまして、退職前6年間は特別支援学級を担当しました。退職後も、何らかの形で、特別支援学級にいる子たちの将来に携われたらと思い、ワーカーズコープが運営していた障がいのある子の学童「じゃんぷ」で非常勤講師として働き始めました。そのころ市内にはいくつか公立の福祉事務所があったのですが、どこも定員がいっぱいでした。じゃんぷに通っていた子たちの親御さんから、「うちの子たちが卒業後にいけるところを」と新たな事業所の開設を望む声がたくさんありまして、私に白羽の矢が当たったんです。開設までは場所探しなど、準備には2年程かかりました。先月6周年を迎えたところです。

―生活介護と就労継続支援B型の方が集っていますが、普段はどんな活動をされていますか

鹿谷:生活介護のメンバーは、生活自立、身辺自立がメインになります。主な活動としては、ペットボトルや段ボールのリサイクル、地域でのごみ拾いボランティアやウォーキングなどを行っています。

就労継続支援B型の方たちは、元々一般就労をしていた人たちもたくさんいらっしゃいますので、畑作業や内職に取り組んでいます。近くのBTファームさんと連携して、定植や収穫作業などの就労作業を行ったり、農家さんから野菜を仕入れて市役所や団地で販売をしたり、また個人宅や工場、お店などからの依頼を受けて、敷地内の草取り除草に行ったりしています。開所してから6年の間に2人、一般就労に復帰されました。私たちはそうした「もう一度社会復帰をして社会と繋がりたい」という思いを応援する立場でサポートを行っています。

―くじら雲のお名前の由来は?

鹿谷:小学校1年生の国語の教科書に載っている「くじら雲」からとっています。空にいるくじら雲が、校庭で体操をしている子どもたちに「こっちにおいでよ」と呼びかけるんですよね。校庭ジャンプする子どもたちにむかって、くじら雲は「まだまだよ」って「もっと高くもっと高く」と応援するんです。それでジャンプした子供たちは風に乗ってヒューとくじら雲に乗るんです。

世の中には「社会と繋がりたい」という気持ちを抱えながらも、なかなか外に出られない人たちがまだまだいらっしゃいます。自分から外に出て、一歩踏み出してやろうと思えば、必ず手を差し伸べるところがあるから。そういう意味でくじら雲と名付けました。

―どのくらいの利用者がいらっしゃるのでしょうか

鹿谷:現在は生活介護、就労支援あわせて25名ほどの登録者がいまして、そのうち16名前後の方が毎日くじら雲に通っています。月曜~金曜までくじら雲は開いていますので、ご自分の体調を相談しながら、利用日を決めています。

取材班がお伺いした時間は、ちょうど午前中の作業を終え、休憩中でした。作業所内には袋詰めを終えた野菜のかごが並び、利用者とスタッフのみなさんがおしゃべりをしながら、お茶をのみ、のんびりされていました。様々な人が混じり合う、明るい雰囲気が漂っています。

―利用者さんは、どのような理由でくじら雲を選んでいるのでしょうか

鹿谷:多くの場合は就労支援事業所からの紹介です。入所前に体験してもらうのですが、そこで農作業をはじめ、普段くじら雲で取り組んでいる活動を体験して、楽しそうだという実感を持ってもらっているのだと思います。それから、くじら雲は生活保護と就労支援の多機能型だということも大きな特徴です。就労支援B型だけの事業所はお仕事一色のところが多いのですが、ここは生活介護もあるので、色々な創作的な活動も隣でやっている。絵手紙を創る時間や、歌を歌う時間もある。そうした力を抜いて自分を楽しめる、みんなとコミュニケーションをとって和気あいあいと笑えることで、くじら雲は心から楽しんでいい場所だと利用者さんに思ってもらえているのではないでしょうか。

―くじら雲の活動のスローガンについて、詳しく教えてください

鹿谷:くじら雲をつくるときに、①内なる衝動、②働く(傍楽)、③地域を元気に!という3つのスローガンを掲げました。

  • 内なる衝動

開所して間もない2019年春に、上尾から視覚障がい者のある女性が、くじら雲を訪ねて来てくれたんです。くじら雲は開所したばかりで、ハード面でも受け入れが厳しく、スタッフ内ではまだ受け入れは難しいのではと話し合っていました。でも、その人が上尾でもなく、桶川でもなく、うちを訪ねてきてくださった。その気持ちにどうしたら応えられるのか、そういうふうに考えませんかと、ある人が言ってくれたんです。そこから話の流れが変わり、4月から受け入れることになりました。救いを求める手が私達に伸ばされているんだから、その手を払うのではなく、どうやったら受け止められるのかを考える。理屈ではなく、何とかしてあげたい気持ちを尊重する、それが内なる衝動です。

  • 働く(傍楽)

生活介護が必要な方は、例えば食事介助を必要とする人もいますし、おトイレ介助する必要とする人もいます。こういう福祉の制度が整備されてない頃は、親御さんたちがそれぞれの家で介護をする現実が長くあったわけです。

うちに来て働くうちに来て時間を過ごすことは、傍の者を、つまりご家族を、楽させることですよね。ある利用者の親御さんから、「鹿谷さんやっと自分の時間が持てましたよってね」しみじみと言われたことがあります。「やっとうちの草取りもできるようになって良かったよ」って。障がいのある人たちの、その親御さんが安心して老後を暮らすこと、安心して自分の時間を持てること、これは権利としてあることです。福祉サービスだとか、地域の人たちとか、いろんな人たちが関わって、絶対に親御さんだけが抱え込まない環境をつくる。そのために、地域でくじら雲のような福祉事業所や、法整備がきちんとなされることが必要です。

  • 地域を元気に!

他の福祉事業所では、内職を行う所が多いんです。つまり室内の仕事が多くて。近隣の人からすると、ここ何やってるのかなと言う、よくわからない場所として捉えられる可能性もあります。くじら雲はそうではない、開所当時からどんどん外へ出て行こうと思ったんです。地域を元気にというのは、ちょっと仰々しいですけども、メンバーたちを連れて外に出ることで私達も元気をもらいながら、地域と関わっていこうということです。

―最後に今後の展望をお聞かせください

鹿谷:今年の4月に障害者差別解消法が改正されたんですね。今までは市役所や図書館など、公共の施設にこの法律が適用されてたんですが、4月1日から民間業者にも適用されるように変わりました。例えば今まで障がいのある方が映画館に行こうとしたら、車椅子の方お断りっていう看板があったわけですね。それが4月1日から民間業者にも障がいのある人も、誰もが誰でも安心して利用できるような努力が、民間業者にも無理のない範囲で、求められますよという法律が改正になったんですね。しかし、実際にこの改正がどのくらい浸透しているのかは疑問です。

ちょうど7月22日に6周年のイベントでカラオケとボウリングを巡るイベントを企画しました。ボウリング場は多目的トイレを設備している所があったのですが、カラオケの方は多目的トイレを設置しているお店がなかったんです。まだまだ民間業者のなかには、車いす対応ができていないのかなと。逆に言えば私達がどんどん外へ出ていくことで、地域の人をはじめいろんな人たちに理解していただくきっかけになるのかなと、今回まさに思いました。

救いを求める手が見えたのなら、その手をはらうのではなく、どうにかして助けられないか考える。積極的にメンバーを連れて外へ出ていき、地域との繋がりをつくる。鹿谷さんの言葉は、日々利用者と向き合い、よりよい福祉の現場について考えているからこそ発せられる実感がこもったものでした。地域に出て行く背中を押してくれる人がいること、それを受け入れる地域があること、その両方が福祉の現状をよりよくするために必要なのだと感じます。

市役所や団地でくじら雲の販売スペースをみかけたら、ぜひお立ち寄りください。

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